005/個性

「カナタ」

名前を呼ぶと、だらしなく甘えた声で先生、と呼んで見せる。その姿がたまらなく愛おしく、ナルサスは彼女の唇にも優しい感触を与えてやった。小さな唇はそれを受け入れ、ナルサスの唇を時々食んでは幸せそうに微笑む。

「気持ちよかったか?」
「はい…」
「素直でよろしい。しかし、ここから先は少しばかり痛みが伴うかもしれんな」
「というと…?」

変わらず炎天下に放置された飴玉のような瞳をしたカナタが問いかける。ナルサスは己の猛々しい物をカナタの秘部にぐっと押し当てると、低く甘やかな声で「これを挿入るからな」と囁く。粘液で泉のようになったそこにぐりぐりと亀頭を押し付けられ、カナタはそこに与えられる熱をもった刺激に耐えきれず吐息を漏らした。しかし、どうやら彼女の意識はそれを受け入れるところにはなく、瞳は徐々に確かな輪郭を取り戻してナルサスの男性器を眺め始めた。

「そんなに大きくなるものなのですか」
「うん?」
「そんなものが…男性は皆…」
「どうした、カナタ」
「エラムにも、陛下にもついているんですか?」
「待て。何の話だ」
「先生でこの大きさなら、ダリューンさまやキシュワードさまのは一体…?!」
「おい」

先程までのとろりとした表情はどこへやら、彼女の顔はすっかりと異を唱えるときのそれに成り代わっていた。さすがに情事の中でそんなことを言われるとはナルサスも想像していなかったが、カナタはこれまで臨戦態勢の男性器など見ることがなかったのだ。その経験を積ませなかったのは他ならぬ師、そう、ナルサスなのである。そう思えば仕方のない反応かもしれない、とナルサスは頭を抱えつつも今一度師として答えてやる覚悟を決めた。情事の最中に他の男の名を呼ぶのはタブーだと、どこかで教えてやらねばとも感じるが、それはまた別の機会になりそうである。

「とりあえず、おぬしが旅をした仲間の男には皆ついている。そのほかは俺もこの目で見たわけではないが、生物学上に男であれば通常は皆あるものだ。あと大きさは強さに比例するものではない、決して」

語尾を強めて言うナルサスの言葉の半分も入らぬといった様子でカナタは目の前のそれに視線を釘付けにしていた。

「さ、触ってみても?」
「…はぁ」

思わず声がつくほどの大きな溜め息が出るのを止める術もない。そして動くものを見つけた猫のような好奇心だらけの瞳を見ると、最早これを沈める手段は触らせるほかあるまい、とナルサスは諦めた。指先で恐る恐る触れようとしているカナタの手を掴み、今度は自分が体を倒して、彼女を太腿の上に座らせる。

「握ってみなさい」

そそり立つそれを握ったカナタの手の上から、ナルサスは更に自分の手を重ねた。彼女は自分の乳房が丸出しなのも、下半身の衣服が乱れているのも気にせず、ナルサスの服の隙間から現れているそれをただただ観察していた。脈打つ度に驚いている様子を見せるのが本当に猫のように思われる。彼は自分の腰紐をほどくと、邪魔になった衣服をはだけさせた。

「先生、男性器はどういう風にすると気持ち良いのでしょう。教えてください」
「本当におぬしは困った弟子だな。妓館で読んだというそれに書いてあったのではないか」
「…しかし、初めてのことですから、ご教示いただきたいのです」
「初見で動いてみるのも大切だと教えたであろう」

やや投げやりにそう言うと、ナルサスはカナタの出方を伺った。困惑して恥じらうかと思いきや、彼女には
ナルサスのそれもすっかり実験台にしか思えていないようで、控えめに握った手を上下させてみる。動きも刺激も拙いものではあったが、目の前で初めてそういうことをしている彼女の姿を見ると、ナルサスとしても多少そそるものがあった。細い指が雁首に触れるたびに、何となく心地よい快感が得られる。

しばらく夢中で手を動かしていたカナタだが、ふっと何かを思い出したように、自分の耳にかかる髪をかきあげる。そうしておもむろにナルサスの男性器に唇を寄せると、先端からこぼれている雫に、ちゅっと音を立てて吸い付いた。

「しょっぱいです」
「カナタ、お前。やめなさい」
「舐めると気持ちいいと、文献に書いてあったのを思い出しました」
「おい待て、…っふ…」

亀頭が急に湿った温かい刺激を受け、ナルサスは堪らず声を漏らした。粘度の高い唾液がまとわりついて、カナタの小さな舌が先端をちろちろと舐めているのが分かる。口の中に含まれたまま雁高の周囲を尖らせた舌先で舐められて、それに彼女の手による上下運動が加わると、確かにそれは快感であった。
ナルサスはこの日まで、彼女のことを思いながら夜を過ごしてきたのだ。視覚的にも強い刺激であるのに、『文献で読んだ』という快楽のツボを的確に突いてくるその動きに、あまり長くは耐えられなさそうだと感じる。

「…駄目だ、カナタ、出るから…っ、離しなさい」

彼女の口内での愛撫はより激しさを増し、既に数分継続されている。さすがにそろそろ離してもらわねばまずい。そう思ってカナタの頭をやんわりと遠ざけようとするが、それに彼女は従わなかった。それどころか舌も手もより激しい動きに変えて、確実にナルサスを追い込もうとしている。
そうしてカナタは先程自分がされたように、彼の男根を愛撫する舌も手も止めず、そのアメシスト色の瞳をじっと見つめた。目があった瞬間、ナルサスはぞわぞわと背筋にこみ上げるものが抑えきれなくなるのを感じる。小刻みにそれを痙攣させ、彼は熱を孕んだ口内に射精した。口の中に注がれたものをすぐに吐き出させてやろうと手を彼女の口元に持っていこうとするが、そうする前に彼女は反射的に自身の手のひらに白濁を吐き出していた。

「おえ、まずい…もしかすると私の作った料理も、こんな味なのかもしれません」
「確かに旨いものではないと思うが、その反応はさすがに睦言を交わす相手にしていいものではないな」
「申し訳ありません、先生。気持ちよかったでしょうか」
「とりあえず口をゆすいでこい」

眉間にしわを寄せながら問い掛けてくるカナタを見て、一体どこで育て方を間違ったのかとナルサスは頭を掻いた。しかし彼女がそういう知識を得たのはギランの妓館でということなので、自分の師匠としての振る舞いとは全く関係がないとしてその場で気持ちを処理する。

「戻りました、先生」
「そうか…では、そこに座りなさい」
「はい」
「もう一度服を脱がさねばならんな」

そう言われた瞬間に、カナタはやはり耳まで真っ赤になり、視線を彷徨わせている。口をゆすぎに離れたときに、乱れた衣服をすかさず直してきていたのだ。先程まであんなにムードのない発言をしていたとは思えぬカナタの姿に、ナルサスは半ば怒りを感じていたのも忘れ再び自身に熱が灯るのを感じた。

「先程まで無邪気な子猫のようだったのに、今度は林檎のように真っ赤ではないか、忙しいな」
「せ、先生が…今日は私のことを弟子だなんて言うからです」
「カナタ」

名前を呼ばれ、返事をしようと開いた口には、すかさず唇があてがわれる。二人で初めての夜だというのに弟子扱いされたのがどうにも気に入らなかった様子の彼女に、すまぬと一つ謝りを入れ、ナルサスはもう一度深く口付けた。

「お前はもう俺の弟子ではないのだったな」
「そうです、ナルサスさま」
「…さま、というのがついていると、やはり手を出している気分になってしまうなあ」

今宵のお前は俺の妻だ、とナルサスは言う。カナタはその言葉に誘われるように、ナルサスの名前を呼んだ。聞き慣れない響きのそれを受け、ナルサスも彼女の名前を呼んだ。そうして彼女の服を殊更丁寧に脱がせ、自分の着ているものも全て取り払うと、ぴったりと肌を重ねてその体を押し倒した。肌と肌の触れる感覚が、何の隔たりも持たないただの男と女になった二人を示すようでくすぐったい。

「愛している、カナタ」
「私もです……ナルサス」

まだ己の名を呼び慣れない様子の彼女とより深く繋がるため、ナルサスはその深くまで自身を突き立てた。ゆるやかに、しかし激しく、相手の快感だけを求めて腰を動かすナルサスに、カナタは最初こそ異物感を覚えていたが、それが快楽に変わるまでに多くの時間は要さなかった。

そうして絶頂に達する中で何度も名を呼ばれ、彼もまたその慣れない響きに翻弄されては、自身の欲望を吐き出すのだった。