004/悦楽

「乳房…です」
「上出来だ。カナタ、身体を起こしなさい」

組み敷いている彼女の背中に片手を滑り込ませ、ナルサスはその上体を自分に寄り添うように起こした。胡座をかいた彼の上で、向かい合うように脚を拡げて座るような体勢を取らされると、当然ながらカナタの股の間にはナルサスのそそり立っているそれの存在が近く伝わる。

「先生、興奮しているのですか」
「していなければこのようにはならんな」
「では以前にペシャワールの浴場で、その…触れ合った時も?」
「…できればその記憶は、永遠に葬っておきたかった」
「も、申し訳ありません」

慌てて謝罪するカナタに、ナルサスはその表情を曇らせずに苦笑した。あの時はまだカナタは自分の弟子だったし、ああいう風に女性の肌に触れれば、生理現象として少なからずそうなるというのを話して良いものかを迷った。

「何と言いますか、先生のその…陰茎を押し当てられると、身体が硬直して何も考えられなくなってしまうのです」
「種の保存のための習性なのかもしれぬな。最も、他の男にそうされたときには迷わず切り落としてほしいと思うが」
「再生しないのですから、それは避けるべきかと。金的程度で済ませます」
「いや冗談だ。本気にするな」

何に対しても真面目な彼女の様子を見ていると、ナルサスは話の内容とは無関係に愛おしい気持ちがこみ上げてくるのを感じていた。そうして会話をすることで多少緊張の解れた彼女に、一つ課題を出してやる。

「カナタ、一度そこに座って」
「はい」
「服を脱ぎなさい。俺に、お前の胸元がよく見えるようにな」

拒否の言葉こそ出さなかったが、カナタが恥じらいを感じている様子は言葉以上にナルサスの心を昂ぶらせた。彼女は言われた通りに彼の上から降りて、寝台の上に座り込む。今日は式典の日ということもあり、お互いにパルス風の式典衣装を身に着けていた。白を基調とし、袖や裾に色とりどりの刺繍で装飾が施されたその衣装は、元々一枚の布から仕立てているため、脱がせようと思えば腰紐を解くだけで簡単にそう出来てしまう。

それを敢えて自分で脱がせるというところがいい、とまたそんなことを考えると彼女に怒られそうだとナルサスは内心で笑う。しかし目の前で腰紐に手を掛けようか迷っている姿は全くいじらしいのである。
どうするかと眺めているナルサスの視線に耐えきれなかったのか、結局彼女はその場でナルサスに背を向けて、自ら腰紐を解いた。そうして上半身だけを露出するよう、両肩にかかっていた服をはだけさせて、その背中を露わにした。

「先生、後生ですからこれでご勘弁ください…」
「お前は本当に男を煽るのが上達したな。誰に教わったのやら」
「こんなことを教わってなどおりません…ただひたすらに、恥ずかしいだけです」

カナタはもはやナルサスに見られているだけで、自分の中の恥の感情がこれまで感じたことのないくらいのところまで振り切れてしまいそうだった。そうして背中を見せていると、ふいに温かい大きな手のひらがそこに触れる。他人に触られることのない領域に優しく触れてくるそれは、肌を滑るたびにぞくぞくと粟立つような感覚を生んでいく。

「気持ちいいのか?」
「わ、かりません」
「そうか。では分からせてやらねばな」
「あっ」

先程まで撫でられていたところに、今度は手のひらよりも柔らかい、温く水気を持ったものが這わせられる。ナルサスは舌と唇でうなじから徐々にカナタの背中を巡り、触感を与えるたびに聞こえてくる途切れ途切れの吐息に夢中になった。カナタは触れられたところが徐々に敏感になっていくのと同時に、ナルサスの唇と舌以外に肌に触れるその柔らかな蜂蜜色の髪にすら快感を与えられていることに驚いていた。
十分に背中にも素質があることを確認しながら、ナルサスは唇での愛撫を首筋に移し、その身体を背後から抱きしめる。そうして言いつけ通り露わになった彼女の乳房を両手に収めると、質感を確かめるようにやわやわと触ってやるのだった。

柔らかく、確かな質量を持ったそれは、それまで触れてきたところより一層肌に吸い付くような心地よさがあった。ナルサスが執拗にそこを揉みしだいている間、カナタは確かに日頃人に触れさせない部分を鷲掴みにされていることへの羞恥を感じてはいたが、書物で読んだような快楽とは結びつかないなとぼんやり考えていた。

「その…先生?これ、お好きですか」
「好きかどうかと聞かれると、男には答えづらい質問だな」
「男性は皆、大きいのが好きだと伺ったのですが…私のものでも満足していただけるのでしょうか」
「いや、お前のは大きくなったと思うぞ。ほとんどないと言ってもよかったのに」
「っ、いつの頃と比べての話ですか、先生!」

顔を真赤にして激昂した様子を見せるカナタを、それでも可愛らしいと思えるのは何故だろうと考えるナルサスであった。無論、この世界に来たばかりの頃の彼女にそういう感情はなかったし、あくまで一般論として成長したというだけの話だ、とナルサスは付け加える。

「それに大切なのは大きさというより、その機能だからな」
「機能とは…、んんっ、ん」
「おや、どうやらそちらの方も問題なさそうだ」

ナルサスが指で乳房の先端を摘むたびに、今度は先程よりも明らかな嬌声が漏れ出す。胸の奥がじんじんと痺れるような感覚に、カナタは腰を微妙にくねらせて耐えた。指先で弾かれたり、くりくりと捏ね回されたり、強く摘まれたりと変化の波を与えられ、気持ちいい、と口走りそうになるのを必死で抑えこむ。
そのうちに今度は身体の向きを変えられ、先程と同じようにナルサスと向き合う形で彼の太腿の上に座らせられる。布越しながら自身の秘部に感じる確かな男根の熱と、快楽の蕾となった乳首に這わされるナルサスの舌とが、もはや思考回路を根こそぎ奪っていってしまうように感じられた。

「あっ…すっても、何も出ませぬ、ん…はぁ」
「出ているではないか、可愛い声が」

静寂に包まれた屋敷の中で、唯一聞こえるその甘い声と吐息を途切れさせまいと、ナルサスは彼女の乳首を愛撫しながら、右手を彼女の太腿に這わせる。脚を拡げたことですっかり露わになったそこは、しっとりと汗ばんでいて柔らかに熱を孕んでいた。

指が静かにそこを這うだけで、カナタは何か切ない気持ちになっていた。見る見るうちに涙目になっていく彼女を見て、あまりいじめては拗ねられかねない、とナルサスはその指を彼女の秘部に進ませることにする。するとカナタはその気配を鋭く察したのか、快楽に溺れそうになる中で必死に身体を動かし、ナルサスから後ずさるような形でベッドに尻もちをつくと、右手で乳房を、左手ではだけてしまった下半身を隠すような体勢を取った。きつくナルサスを威嚇するように睨む瞳は、涙をいっぱいに貯めていて全くと言っていいほど彼女の目的を果たしていない。

「何故隠す」
「さすがに心が持ちませぬ」
「恥じらう姿も可愛いが…俺は何も、お前を取って食おうというわけではない」
「今正に、食らおうとしていたではありませんか」
「お前がそれを拒むのなら、無理強いはするまい。ただな、俺も一人の男だ。目の前に好物があるというのに永遠に待てと言われては、空腹をいつまでも我慢できるとも限らん。他の皿に目移りするやもしれぬな」
「しかし先程、私以外の女性はいらぬと仰ったばかりです」
「女性だけとは限らんだろう」

カナタは絶句した。まさか彼の口からそんな言葉が出るとは想像していなかった。嘘かはったりか、あるいはこの場でカナタの気持ちを揺らすだけに選んだ言葉であるか、ありとあらゆる初めての感覚の連続に、それが冷静に判断できず困っていた。
ナルサスは美丈夫だ。それに、地位も権力も、富もある。自分に想いを伝えてくれたからといって、その存在が永遠に自らの傍だけにあると誰が言い切れるだろう。幸せな気持ちの中でそんなことを考えるべきではないが、幸せだからこそ、そうやってからかわれたことに対しても不真面目に向き合うことができなかった。

葛藤している彼女の様子を、ナルサスは期待に満ちた瞳で眺めた。どういう答えを出すのか、彼自身その結末を楽しみにしていたのだ。そうしてカナタは、意を決したように両膝を立てた。その小さな膝と膝の間に控えめに隙間を作ると、これ以上ないというくらいの羞恥を顔に浮かべ、ナルサスの瞳を見据えた。

「先生、私はそういう…駆け引きをどうしてよいのか分かりませぬ。ですから、先生のお好きなように、私に女としての快楽を、手ほどきしてくださいませ」

据え膳くわぬは―――とまるでギーヴのような台詞を思い浮かべながら、ナルサスはカナタの膝に勢い良く両手をかけた。そうしてそこに身体を割り込ませるように入ると、彼女の秘部に顔を近付け、その様子を眺めるよりも先に快楽を秘めた蕾に舌を這わせる。
びくん、と身体が大きくのけぞり、カナタの口からはこれまでにないほど蕩けるような甘美な声が発された。体の奥がむずむずするような快楽とは別の、明らかに感じる性感に戸惑い、しかし抗う術はない。
ナルサスの舌が上下するだけで腰の中身がきゅうっと掴まれて締め付けられるような快感と、自分の体に与えられたことのない変化に、頭の中を全て持っていかれそうだった。目の前がチカチカとし、何とはなくナルサスの様子を見たそのとき、彼のアメシスト色の瞳とその視線がかち合えば、視覚が犯されたような風に思われその羞恥心が快楽をいっそう大きいものにしてゆく。

逃げようと思っても、ナルサスの両の手は彼女の腰をがっしりと掴み離さない。徐々に追い詰められていくのが分かるが、もう息が触れるだけで腰が跳ねてしまいそうだ、と思った次の瞬間に、腰から脚の付根の辺りにかけて小さく体が痙攣しはじめるのに気付く。

「だ、だめっ…先生、何かへんですっ、やめ、ああっ」
「止めてもいいのか?この先に、お前の知りたい快楽が待っているというのに」
「んんっ、あっ、あ!やっ、そんなにしたら―――!」

彼女の懇願など何処吹く風と続けられる愛撫に、腰をびくびくと震わせて、カナタは達した。ひときわ大きくナルサスの脳を侵すような嬌声を上げ、直後に襲い来る強い眠気にも似たような全身を甘く痺れさせる快感に、戸惑いながらもうっとりと目を細めていた。ナルサスが秘部に数回、優しく口付けをすると、それすらも今の彼女にとっては強すぎる刺激となるのか、その度に体を震わせるのだった。