My Fair Lady!(and My Brother!)2

彼氏の弟とは割とうまくやっている、と思う。

「啓ちゃん聞いてよ~ちょっと~」
「うわっ酒臭!ってかタバコ臭ぇよ!抱きつくな!離れろ酔っ払い!」
「あぁ~!ひーどーいー!!」

だって久々に家に来たっていうのに涼介が疲れ果てて寝てるんだ。だからそこを、兄の責任とって弟が構ってくれたっていいじゃないか。仲いいんでしょあんたたち。

「涼介寝てんだもん、啓ちゃん構ってよ」
「俺はお前の彼氏じゃねぇ」
「彼氏の弟でしょうがァ」

問答無用、とにかく啓介を客間まで引っ張っていって酌をさせる。いーねー若いカッコいい男の子にお酌してもらったビールは最高にうまいよ本当!文句なし!酔っぱらった勢いでばしばしと背中を叩けばいつもの威勢のいいのはどこへやら啓介はもうホント面倒くせぇなという顔でげんなりしてた。げんなりしてもカッコいいのだから顔のいい男というのは得である。

「大体、来るなら連絡のひとつくらいしてから来ればいいだろ。そしたらアニキだって起きてたかもしんねーのに」
「そういう常識はあたしと涼介の間にはないわけだよ啓介くん」
「俺に連絡する前にアニキにしろっつーの…」

そうなのだ。高橋邸にお邪魔するときあたしは何故か兄より先に弟にメールをしてしまう。というか涼介宛にはそんなメールを送ったことがない。

「だって啓ちゃんだってあたしがいたら気ィ遣うでしょー」
「それとこれとは別だろ!アニキ、あんたに会えないっつってえらい凹んでたんだぞ!」
「は?」
「あ、やっべ…」
「そー…なんだ。なんだ、なんだそうなんだ!そうなんだぁ?!」
「だーッ!!黙れこのアル中チェインスモーカー女!!」

やっぱり。あたしには言わないくせに啓介にはちゃんとそういうこと言うんだ。そう思うとなんだか頬が緩んで自然とにやにやしてしまう。なんだかんだ言って年相応の可愛いとこあんじゃない涼介め。
あたしも涼介も、お互いに好きだの愛してるだの言うのが結構苦手だ。そんじょそこらのカップルみたいに愛の言葉を囁くのはそりゃ確かに嫌なんだけど、こうして長い間付き合っていると再確認だって必要だと思うときがある。そういうときとても困る。果たして自分が相手のことを好きでいるのかどうかの確認も、はたまた相手が自分を好きでいてくれるのかという確認も、どう取っていいのか分からないのだ。

「いーやー啓ちゃんがいてくれて助かるわ、ホント」
「俺はお前がいてくれてすごく迷惑だ!」
「お前だなんてそんな。今日から「アネキ」って呼んでもいいのよ」

こんな出来のいい弟なら大歓迎だと思っていると横からものすごい剣幕でこんな出来の悪い姉貴なんかいるかと罵られた。啓ちゃんは本当に、本当に涼介の弟かと思うくらい感情表現が直球だ。これはバランスを取っているということなんだろうか。それならば啓ちゃんがこうしてあたしたち2人のバランスをうまく取れているのも頷ける。

「とにかくっ、久々に来たんだからアニキの傍にいてやれって!」
「しゃあないね。未来の義弟の言うことは聞いておきましょうか」
「だ・れ・が!義弟だ!」

とりあえず無駄に広い高橋邸の廊下をまっすぐ歩くことが困難なあたしは、かなりレベルの高い造形美な義弟に肩を借りてご機嫌で涼介の部屋へ向かうのだった。


End.