My Fair Lady!(and My Brother!)

アニキに彼女ができたのはつい最近なんて話じゃないのだけど、2人が一緒に住むという話を聞いて初めてそういう実感が湧いた。

「ねぇ、涼介のお母さんとお父さんに挨拶しようと思うんだ」
「うちの両親に?」
「新居の手続きの前に。時間も場所もそっちで指定してくれていいからさ」
「分かった。話しておこう」

そいつはアニキが高校の頃から付き合ってる、という変な女だった。外見が特に美人ってわけでもないし、酒癖は悪いわチェインスモーカーだわ栄養失調で倒れるわあまりロクなことをしてないので俺は正直すぐに別れるんだと思ってた。それなのに2人の交際はアニキがこの年になっても続いている。いくらなんでもこれだけ長く付き合える相手と相性が悪いわけがない、そういうわけで一緒に住むという話が持ち上がったんだろう。

「引っ越しの日は立会だから空けといてーあと荷物は入居日に届くように送ってね」
「ああ、もう大方のものはまとめてあるんだ。後はこまごまとしたものだけ…って、どうかしたのか?啓介」
「え?」
「恨みがましい目で見てたぞ」
「なーにー啓ちゃんってばー。もしかして涼介がいなくなるのすごいさみしいとか?」
「そんなんじゃねぇよっ!!」
「やれやれ、そこまであからさまに言われると傷付くな」

俺は正直、アニキは結婚とかそういうの結構適当にするんじゃないかと思ってた。もちろんそれがいいことだとは思ってなかったし、できれば恋愛してちゃんと好きなやつと結婚するべきだと思ってる。けどアニキはきっとそれをしないと思ってた。だって親の病院継ぐことだって本当に心からそうしたいと思ってるようには見えないのに平然と自分が継ぐのが当たり前だなんて考えてる。
だからきっと結婚も自分の意思じゃなく、親の持ってきた見合話かなんかにひょいと乗っちまうんじゃないかって思ってた。

「啓ちゃんも遊びに来たら?大学から近いし、峠行くにも便利なとこよー」
「冗談。どうせアニキもお前もあんま家にいることねぇだろ」

それに一応恋人同士なんだし俺がいたら邪魔になるんじゃねぇの、普通。「一応」とか「普通」とかがこいつとアニキに通用するのかどうか怪しいけどさ。

「まぁ…それに一緒に住むっていっても別に一緒にいる時間を確保したいからじゃないしねェ」
「そうだな、もともとが引っ越しを考えてたところに俺が便乗したようなものだし」
「1人で借りるより安く済むからそれはありがたい。あと生存確認してもらえるから病院行きは少なくなりそう、かな?」
「無理をする回数を減らさなければ意味ないぜ?」
「ウワー涼介にそれ言われるとは思わなかった!ショックだわ」

ショックと言いながらも嬉しそうに笑うその顔はどう見ても幸せそうだ。その横にいるアニキもそんなくだらないやり取りが楽しいって顔をしてる。別に美人じゃねぇし酒癖は悪いわチェインスモーカーだわ栄養失調で倒れるわあんまりロクなことをしてないけど、アニキにこんな楽しそうな顔させられる女なんてそうそういねぇよ。なぁ、アニキ。よかったな。



兄貴に彼女ができました。


(俺はそいつのこと、ちょっとだけ見直しました。)



End.