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タイミングの悪さって生まれ持ったものなんだろうか、それとも習慣づいていくものだろうか。どちらにせよ俺の間の悪さってやつはかなり酷いらしい。

まさかまさか、高橋啓介が女子高生とファミレスデート!なんて許されるわけがねぇだろ!馬鹿野郎!

「啓介、お前も来てたのか」
「あ、ああ。久しぶりだな史浩」
「おいおい、昨日会ったばかりだろ」
「あーそうだっけか!」
「お前、1人なのか?珍しいな」
「それよりさ、今日はなんでこっちなんだ?サンズのメンバーはいつもンとこに」
「それが、いつもの店がえらく混雑しててな。ファミレスで順番待ちもあれだし、俺たちはこっちにしようってことになったんだ」

今日は特別ミーティングの予定もなかったしな、と笑顔で答える史浩。だが俺はそんな話より、どうやってこの場を切り抜けるかというただその一点にだけ意識を集中させていた。幸いここにいるのはアニキと史浩とケンタだけだし、3人とも俺の後ろにいるお嬢が連れだとは気付いていない。どうにか、どうにかして切り抜けられるはずだ!と、知恵どころか脳みそ自体を絞り出す勢いだった。

「啓介、これはどうやったらアイスになるんだ?温かいのしか出てこないのだが」
「うわっ、ちょ、」
「ちょ?」

後ろからくいくいとシャツの裾を掴まれて、驚きのあまりお嬢!と叫びそうになったが思わず飲み込んだ。セーフ、セーーーフ俺。

「なんだ啓介、連れがいるんじゃないか」
「あーえーと連れっつーかなんつーか…その…だな」
「って、啓介さんその子、どうみても女子高生…」

嫌な汗が背中を伝うのが分かる。ああ、ダメだ。どう考えてもこの状況を打破する方法なんて考えつかない。こんなことならもっと色々勉強しておくんだったなとよく分からない後悔をした。色々ってなんだ、色々って。修羅場をくぐり抜ける100の方法とかそういうやつか?

「こんばんは、啓介にこんな可愛い知り合いがいたなんて知らなかったな」
「あーあーあーアニキ!」
「なんだ啓介。別に恥ずかしがることないだろう」
「なっ、何言ってんだよ史浩!!」
「啓介さんってそーゆー趣味だったんですか、意外です」
「ちっげーよ馬鹿!おいケンタ、勘違いすんな、こいつは…」
「こいつは?」

いや、その先は何も考えてなかった。とにかくもう頭の中がミックスジュースで、ついでに言うとミックスジュースにサンダルとか混ざっててうまくミックスされない感じだ。とよく分からない例えで俺が更に混乱していると、それまで俺の半歩後ろにいたお嬢がつかつかと3人の目の前に出る。そして両手を体の正面に置きスカートの裾に添えて、礼儀正しくお辞儀をしてみせた。

「初めまして。啓介先生にはいつもお世話になってます」

言ってのけた一言は、まるで予想のつかないものだった。





大の男4人の中に、ぽつりと女子高生が1人。それはそれは不思議な取り合わせだ。

「じゃあ、ちゃんは啓介の生徒なのか」
「はい。家庭教師に習うのは初めてだったんですけど、先生は教え方も上手だし、見た目はちょっと怖いけど話してみると面白くって。先生のおかげで志望校にも推薦で合格したんですよ」
「へー、啓介さんが家庭教師なんて意外っすね」
「ふふ、先生ってばバイトしてるのが恥ずかしいから内緒にしてたの?」

可愛いとこあるじゃないですかー、と肘でうりうりこちらを小突いてくるのは、紛れもないお嬢だ。うん、お嬢なんだ。それなのにこの心にある違和感の塊は、どうやら俺が「家庭教師」でお嬢がその「教え子」という役回りを演じているからだろう。
咄嗟に吐いた嘘だったのかもしれないが、意外にも3人にはすんなり受け入れられているようで安心した。俺は社会勉強のため家庭教師(友達から頼まれたということになっている)のアルバイトをしていて、つい先日その教え子の大学進学が決まりご褒美に何か奢ることになっていたというまるで架空の設定なのに。さすが群大医学部に受かるだけはあってお嬢は頭の回転も速いみたいだった。

「ところでちゃんはどこの大学に?」
「春から群大の医学部に通うことになりました」
「えっじゃあ涼介さんの後輩じゃないすか」
「先生のお兄さんって群大だったんですか!それくらい教えてくれてもいいじゃないですか先生~」
「ばーか。大学入ってアニキに近づいてみろ、周りの女共から威嚇されるぜ」
「あ、やっぱり?かっこいいですもんね、先生のお兄さん」

俺も口裏を合わせないと怪しまれるだろうからと思い乗ってみれば思いの外すんなりと会話が成立した。それにしてもさっきからアニキが黙りこくってお嬢のことしげしげと観察してる気がすんのは俺の気のせいか?気のせいか。いや気のせいじゃねぇぞどう見ても。

「涼介でいいよ、ちゃん。甘いものは好き?」
「大好きです。特にチョコレートが!」

即答するお嬢を見て満足気に微笑むと(アニキがあんな柔らかい表情を見せるのは珍しい)呼び鈴で店員を呼びつけチョコレートパフェを注文していた。合格祝い、と更に笑顔を付け加えて言う。一体何考えてんだ…?








おまけ

「お嬢…あれは一体」
「す、すまない…お前が昔のことをあまり大っぴらにしたくないのだと思って咄嗟に。変だったか?」
「あ、いえ。すげー助かりました」
「そうか、私も割と楽しかったぞ。じゃあな」(颯爽と走り去る)
「…やっぱりあの格好であのバイクはまずい気がする…見えそうだ…」





おまけ2

「見送ってきたぜ」
「可愛い子でしたね~啓介さんの教え子」
「制服着てなきゃ高校生に見えないよな。大人びてたし」
「そ、そうかぁ?」
「将来美人になるぞあれは。涼介がやたらにこやかに対応してたのは少し驚いたが」
「そうだな…俺もあんな風に見えたんだろうな、きっと」
「「「…?」」」



End.