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「お、お嬢!一体ここで何を…」
「ああ、啓介か。お前こそ何をしてるんだ」

ひゅんひゅんと流れていく車を見ていたらついさっき通り過ぎたと思った黄色い車が引き返してきて、運転席からは啓介が降りてきた。最近組の若い衆が「走り屋」なるものにハマっていると聞き、元々乗り物好きな私はそれを見物に来ていた。(俗に「ギャラリー」ということを若い衆が嬉しそうに教えてくれた。)こんなに曲がりくねった山道なのにものすごいスピードを出して、コーナーでは車体を横に向かせてドリフトしながら皆走っていく。そういった車と同じ様に通り過ぎていったということは啓介も走り屋なんだろうか。

「若い衆が最近ここによく来るそうだ。走り屋をしてると」
「ああ、うちのチームの奴じゃねぇと思ったらやっぱりそうだったんですね」
「チームというものがあるのか?」
「え?ええ。赤城の峠は俺の入ってる「レッドサンズ」ってチームが取り仕切ってんです」
「族みたいだな」
「そんな物騒なもんじゃないっすよ」

啓介によるとそのレッドサンズというのは単なる走り屋の集まりというわけではなく、ある程度の実力がある者だけが入れるものらしい。1軍2軍と分かれているところや、ここ赤城でのバトルは受け付けないところ。そして1軍のメンバーには課せられる厳しい制限があり、その名を語るにはそれ相応のテクニックが必要ということを教えてもらった。

「それにしてもお嬢、ここへはどうやって来たんですか」
「アレで来た。2代目だ」
「あれって…うわっ」
「背も足りるようになったからな。ハーレーはやはり音がいい」
「へぇ…お嬢、なかなかいい趣味してますね」
「自動車免許も取ったんだが、いかんせんこいつに乗るのが楽しくてな」
「まー雨の日の移動用にでも1台あると便利っすけど、車」
「いや、きっと車に乗れば車にものめり込むだろう。啓介も今は車の方が楽しそうじゃないか」

そう言って啓介の後ろにある黄色いスポーツカーを指差す。乗用車というよりはレーシングカーを思い起こさせるそのフォルムに、運転席はやはりレース仕様のようなシートがついている。マフラーやウイングも後から付けたものだろうし、「車にこだわりなんてありません」という人間のものではないことは一目瞭然だった。闇夜でも眩しいような黄色のボディは啓介にとてもよく似合っている。存在の鮮やかさとその鮮烈さは持ち主とよく似ているなと感じた。

「ああ、私だ。…そうか、気を付けてな」

若い衆は明日仕事があるからそろそろ帰ると電話を寄越した。なるほど、ここで走るのはあいつらのいいストレス発散になっているのだな。電話越しの満足げな、少しばかり高揚した声色に思わず口許が緩む。

「にしてもお嬢、制服でこれに乗ってよく捕まりませんね」
「メットを被れば顔は分からん」
「そうっすけど」
「それに言っただろう。この辺りの番犬は対応が遅くて助かる、と…あ」

タイミング悪く腹の虫が鳴いてしまった。間抜けな音は啓介にも聞こえたようで、気まずそうに苦笑された。そういえば晩飯も食べずに飛び出してきたから腹が減っているのは当たり前だ。何か食べに行こうかと思って愛車の鍵を取り出すと、啓介がすかさず「付き合いますよ」と声をかけてくれる。本当に、どこまでも人に好かれる男だ。





麓のファミレスではなくその先の離れたファミレスに寄ることにし、私の後ろを啓介が追う形になった。バイクと車でツーリングというのは経験したことがなかったが、やはりどこか味気ない。

「啓介は何を飲むんだ」
「あー、俺が行きますよ。お嬢は何がいいんですか?」
「自分で行って決めたい」
「ならお供します…」

とぼとぼと2人並んでレジ近くのドリンクバーまで歩く。ファミレスというのは普段あまり利用することがないからかどこか新鮮で楽しかった。ドリンクを自分で、その時の気分に合わせて混ぜられるというのがいい。グラスに少しだけ氷を入れ何を飲もうか迷っていると、ふと入口の方から啓介を呼ぶ声が聞こえた。

「げっ、アニキ…」

はて、兄貴というのは血の繋がった兄のことだろうか。



End.